タイセツナモノハ。

ある本屋さんでは、毎週火曜日のお昼頃にピアノの生演奏がある。

舞台に日参していた頃と違い、ここに住むようになってから生の音楽を聞くチャンスがめっきりなくなった。だものでタイミングが合えば行くようにしている。


本屋さん併設のカフェの中なので、お構いなしの声やドタドタ足音。無遠慮に肩越しに新聞紙に伸ばされる手にびくつきながら、生音に耳を傾け続ける。


音、音楽は確かに魔を祓ってくれるのだ。


曲の切れ目、ピアノの音が鳴り止んだ瞬間、はっとした。


「音がない空間」が厳然と立ち現れた。


目では見えない音が、空間を支配している。私の意識も支配している。


あまり知らない曲が続いた後、私の好きな「白鳥の湖」が始まった。


ピアニストのおっちゃんと目礼を交わした。

音が私の中に生きてくるのは、このおっちゃんとの「心の交流」があるから。


タイセツナモノハ
メニミエナインダヨ。